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里山療法

医療法人わかば会で独自の取り組みとして始まった認知症非薬物療法、「里山療法」。その取り組みも10年を超え、症例の蓄積から認知活性化だけではなく、全人的リハビリ、心不全に対するリハビリへと応用を広げています。「里山療法」の詳細を是非ご覧下さい。

里山療法の始まり

始まりは、2008年に取り組んだ病院の屋上緑化でした。その時、たまたま病院2階のデイケアに来ておられたお年寄りの中に畑仕事をしていた人がいたので、園芸療法を兼ねて植物のお世話をしていただこうということになりました。 「皆で食べられる野菜を植えよう!」ということで、キュウリ、トマト、ナス、ピーマン、枝豆やスイカなどを植えました。そうしたところルーフソイルという特殊な土のおかげと、お年寄りが毎日毎日楽しんお世話をしてくださったためキュウリは200本以上、ナスも50本以上と、とてもたくさんの野菜が実りスイカも大きく育ちました。 それを収穫する時のお年寄りの姿は私達にとって、とても衝撃的でした。普段見たこともない素早い体の動きで、目は輝き、笑顔があふれていました。お年寄り同士の会話もとてもはずんでいました。いつものデイケアでは見られないとても生き生きしたお姿でした。
その姿を見て、みなさん結構潜在的活動能力があるのだなという印象をもちました。それならその潜在的能力をこれからも引き出して、ADL(日常活動能力)を改善するようにつなげていけば良いと考えました。食べられる野菜を植え、育て、収穫するという園芸活動で、人は元気になることがわかりました。「食べることは生きること。食べられる物を生産することは生きる意欲につながる」これが里山療法の原点になりました。 そしてわかばテラスの有する段差のある広い敷地を利用すれば、森林療法(森林散策)と園芸療法を組み合わせたような活動ができると考えました。おそらく、さらなる相乗効果も期待できるだろうと考えたのです。ガーデンの広さは約1000坪ありその庭の各所に棚田や畑が点在しています。棚田ではもち米を育て、お正月には皆で餅つきをします。畑ではその季節季節に応じて、いろんな野菜を育てています。畑は庭のあちこちにあるため、畑仕事をするために、庭のあちこちを歩くことになり(屋外歩行)、里山のようなアップダウンのあるガーデンを歩きながら園芸活動をするため、そしてその行動がお年寄りの心と体を元気にするため里山療法と呼ぶようにしました。

里山療法実践の場、オルソープガーデン

野菜畑だけあれば良いのではなく、美しく咲く花も必要 美しい花が咲いているのを見ると心が和みます。野菜の収穫は年中毎日あるわけではないので、お年寄りを外に連れ出して活動していただくためには、花が咲いていることも大切です。花は心を豊かにしてくれます。畑の傍に花が咲いていると会話もはずみます。そんな心を動かす美しいガーデンが必要でした。そこで地元長崎出身の世界的ガーデナーである石原和幸氏にプロデュースを依頼し、優美なイングリッシュテイストを取り入れながら、広い敷地に丘陵の傾斜を利用して小川を造り、奥行きがあって誰もが懐かしい気持ちなる、里山を再現しました。その後石原氏の紹介で、ダイアナ妃が眠る故郷、オルソープにあるスペンサー伯爵家のガーデンを見せていただくことができました。そこには、ダイアナ妃の結婚式のブーケにも使われた、美しく可憐なスイートピーがありました。このスペンサー家由来のスイートピーの種を頂き、このガーデンに、オルソープガーデンの名前を頂いたのです。このスペンサースイートピーをはじめ、ガーデンには千種類を超える草花が咲きほこります。足しを踏み入れるたびに異なる表情を見せる、生きる美しさに五感を刺激されるガーデンです。

里山スイーツ、里山料理

誰かのために喜んでもらうために活動する 季節それぞれの野菜の収穫、麦刈り、田植えから稲刈りまで年間栽培計画を立て、オルソープガーデン内の畑で収穫を行います。毎年うまく収穫できることばかりではありませんが、年々皆さんと一緒に改善点を考え、おいしい野菜を作ることを目標としています。 自分たちで苦労して育てた作物を収穫すること、これは達成感を感じるときであることは疑いようもありません。 里山療法では、さらに収穫したものを自らの手で調理し、食することでさらなる達成感を得、創造性を高める取り組みをしています。自分たちで育て、調理した食事を味わい、そして栽培や調理での改善点を検討することで脳の高次機能改善、および自律神経機能改善を目的としています。
お年寄りに、人のために役立つことをしていただくことはとても大切なことです。高齢となってデイケアに参加し、人の世話になってばかりいるお年寄りにとって、人の役に立つことをし、人から「ありがとう」の言葉をいただくことは、お年寄りに「生きがい観」を感じていただくことになります。自分の生きる価値を感じていただくことになります。もっと頑張ろうという意欲を引き出します。「生きがい観」をもっていただくことは、高齢者にとってとても意味のある重要なことだと言われています。(日本医師会雑誌 第138巻 S304 2009年)その生きがい観を創出するのに、里山療法はとても有効だと考えています。お年寄りが笑顔になると、ご家族も笑顔になります。そして、私たちも癒されるのです。これからは、認知症を悲惨に思ったり、目を背けるのではなく、明るく捉える社会にしていくことかが必要だと感じます。

トウモロコシの観察研究

わかばテラスで毎年5月から夏にかけて取り組んでいるトウモロコシの観察記録は里山療法のメインともいえる取り組みです。参加された方々は、種植え、水やり、間引き、追肥、収穫という全行程の作業に携わり、その都度、観察ノートを活用し、発育状態やその日の感想を記録していただきます。 1人の方にポットを3つ用意し、1つのポットにトウモロコシの種を3つずつ蒔きます。観察日誌には、いくつ種を蒔きましたかとの質問があり、そこに9個と記入します。しかし短期記憶障害の強い方は、目の前の種が(土の中に入って)見えなくなったので、それが答えられない方もいます。
1週間後芽が出ますが、1つの芽に葉が2~4枚出ます。合計いくつの葉がつきましたかとの問いに、葉の枚数を数え、合計して答えます。 茎が伸びて来たら茎の長さを計り、それを合計します。(光トポグラフィー検査の際、スタッフは茎の長さを測るためのメジャーを持っています。) こうした実在する物(種、葉の数、茎の長さ)を正しく数え、正しく計り、それを合計するという作業を、トウモロコシが実り収穫するまで続けます。収穫までの約3ヶ月この作業を続けると、認知機能が改善が確認されました(MMSEは2~3点改善)。このトウモロコシの観察研究について、当医療法人ではデータの蓄積を継続して行っており、MMSE、ADLの改善に関する結果を他施設において比較研究を行うという取り組みを行っています。

裸足の散歩道

芝生を素足で歩く オルソープガーデンの各所に点在する畑や棚田で園芸活動をするためには、庭を回遊(散策)することになります。(1周約500m、南側のポタジェを含めると約700m)美しい里山のような庭を眺めながら、楽しく、苦にならないように歩く運動療法を、園芸活動と合わせて行っています。 この散策経路の一部に芝をはり、裸足での歩行が行えるようになっています。裸足で散策することにより、歩くこと自体への喜び、足裏の感覚を刺激し歩行バランスの改善が得られることを目的としています。 そのためスタッフ達は芝生の上に踏んではいけない物(小石や鳥のフン、虫など)がないことを事前に確認しています。芝生の散歩も近赤外線を用いた、脳の前頭葉の表面の血流を見る検査、光トポグラフィー検査を行うと、脳血流の増加が確認できました。

新たな取り組み 人生最後の里山療法

車椅子や、ストレッチャーに乗ったままの低い位置からでも眺められる美しい自然・庭。その庭を眺めて心が穏やかになる、つまり自分で動くことができなくなった方にできる人生最後の里山療法の場を作りたい。 そこで、五島教授との出会いがありました。2014年に米国のラトガース大学より長崎大学に赴任してこられた五島教授は、環境科学を専門に研究され、米国で日本庭園のお年寄りに与える心理的恩恵について研究されていました。 米国でナーシングホームにいろんな庭をつくり、どんな庭がお年寄りに喜ばれるかという研究絵おされており、結果は「日本庭園」が一番好まれたということで、人生最後の里山療法のアイデアを元に五島先生がわかばテラスに日本庭園を作庭して下さいました。 脈波を記録しながら日本庭園を見る研究活動は約20人の方に行いましたが、15分間庭園を見ている間に眠ってしまう方はいませんでした。認知症が中等症の方でもちゃんと庭を眺めていました。 102歳の方も、高度のアルツハイマー型認知症の方も、15分間しっかりと庭園のあちこちに目を運んでおられました。その方の脈波解析では心拍数が緩やかに下っていました。自律神経の副交感神経の活動が優位になったからです。脈拍数が少ない人のほうが寿命が長く、副交感神経の働きが活発になれば免疫にかかわるN-K細胞の活性も高まり、免疫力強化につながるという研究報告があります。つまり日本庭園を観ることで、人はより健康になるということが言えます。現在この研究は長崎大学と米国ラトガース大学、それに香港科学技術大学の3ヶ所で進められています。

 

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